組曲虐殺

2019年10月24日(木) 13:30~ (天王洲 銀河劇場)
井上芳雄さん、上白石萌音さん、神野三鈴さん、土屋佑壱さん、山本龍二さん、高畑淳子さん
ピアノ:小曽根真さん

再再演の『組曲虐殺』。ようやく観に行くことができた。

あらすじ(公式サイトより)-----------
ときは昭和5年の5月下旬から、昭和8年2月下旬までの、2年9ヶ月。

幼い頃から、貧しい人々が苦しむ姿を見てきた小林多喜二(井上芳雄)は、言葉の力で社会を変えようと発起し、プロレタリア文学の旗手となる。だが、そんな多喜二は特高警察に目をつけられ、「蟹工船」をはじめ彼の作品はひどい検閲を受けるだけでなく、治安維持法違反で逮捕されるなど、追い詰められていく。そんな多喜二を心配し、姉の佐藤チマ(高畑淳子)や恋人の田口瀧子(上白石萌音)はことあるごとに、時には変装をしてまで、彼を訪ねていく。瀧子は、活動に没頭する多喜二との関係が進展しないことがもどかしく、また彼の同志で身の回りの世話をしている伊藤ふじ子(神野三鈴)の存在に、複雑な思いを抱いている。言論統制が激化するなか、潜伏先を変えながら執筆を続ける多喜二に対し、刑事の古橋鉄雄(山本龍二)や山本 正(土屋佑壱)は、彼の人柄に共感しながらも職務を全うしようと手を尽くす。命を脅かされる状況の中でも、多喜二の信念は決して揺るがず、彼を取り巻く人たちは、明るく力強く生きていた。
そしてついにその日は訪れる…。

多喜二「ぼくたち人間はだれでもみんな生まれながらにパンに対する権利を持っている。けれどもぼくたちが現にパンを持っていないのは、だれかがパンをくすねていくからだ。それでは、そのくすねている連中の手口を、言葉の力ではっきりさせよう・・・・(中略)ぼくの思想に、人殺し道具の出る幕はありません。」
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こまつ座の芝居に外れはない。
こまつ座さんの舞台を観に行くといつも思うことだ。もちろん内容に好き嫌いはあるだろうが、脚本、キャスト、演出などに残念な印象を持つことは今までなかった。

それは今回も同様である。「いいものを観た」。そう思い、満足して劇場を後にした。
背筋にはなんとなく薄ら寒いものを感じながら…。

この作品は、井上ひさし氏の最後の戯曲である。
本当のこと、耳の痛いこと、目を背けたくなるようなこと、でも考えなくてはならないことを、独特のユーモアに包んで娯楽として仕上げてしまう井上氏の才能は、最後まで枯れることがなかったのだと実感した。

これは、確かに今上演される意味のある作品だと思う。
昔はこんな時代があったのねと、ただ笑って観てはいられない。この作品自体、そのうち上演できなくなるのではないかと、そんな暗澹たる思いが頭をかすめる。

私は、例の如く『蟹工船』は読んだことがなく(毎回無教養を晒すようで恥ずかしいが)、プロレタリア文学についてもよくは知らない。少しは調べてから観た方がいいかとも思ったが、あえて何も勉強せずに観てみた。

それでも、この作品が示唆する時代の”ヤバい”雰囲気は察することができる。思わず吹き出してしまうような場面もたくさんあって、しっかり楽しみつつもやはり考えずにはいられない。

キャストは6人だけ。人数は少ないけれど、上手い人ばかりなのでもっとたくさんいるように感じられた。
音楽はピアノ一本。そのピアノが小曽根さんだという贅沢。時に静かに、時に激しく、演者に寄り添い、また、突き放す。音楽ももう一人の登場人物になっていた。

多喜二は拷問の末命を落とすが、『1984』のように直接的な描写がされるわけではない。周りの人物たちの台詞によって語られるのみ。それなのにものすごく胸に迫ってくるのは、やはりキャストの力だろうと思う。

結末は悲劇的だが、本当の悪人は誰も出てこない。そこもまた悲しい。


プリンスを封印した井上さんの、信念を感じさせる演技と静かな抑えた歌が印象的だった。

上白石さんは、相手役としては少々若すぎるのではないかと思っていたが、落ち着いた演技で違和感がなく、驚いた。健気な瀧ちゃん、とてもよかった。

高畑さんは、姉というよりだいぶお母さんな雰囲気があったが、あのひょうひょうとした持ち味が重い題材を重くし過ぎず、井上氏のユーモアとも合っていて救いになった。

神野さんは、かっこよさとあの独特の色気が、ふじ子という地下組織で生きる女性にぴったり。彼女の演技、とても好きだ。

特高コンビの山本さんと土屋さん。多喜二という人に近くで接し、それぞれに違う方向に葛藤を抱える様子を自然に楽しく演じていた。


初演、再演と都合が合わずに観に行けなかった舞台。今回観劇できて、本当によかった。

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